DRRR! !【連載】

□19×ダラーズ
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19×ダラーズ




「それでねぇ…って姫乃ちゃん聞いてるー!?」

「あ、ごめん。で、何だっけ?」

「だからさぁー」



目の前でベッドに腰掛けているのは、もはや保健室の常連となっている2年生の女子生徒。
好きな人が出来たとか、彼氏が浮気したとか、事あるごとに私の所へ相談に来る。
恋愛相談所じゃないんだけどな…とも思うけど、こうも懐かれると話を聞いてあげない訳にもいかなかった。



「けっこう掲示板で書かれてたりもするんだけどね」



彼女の話を聞くに、今日は恋愛についての議論ではないらしい。
昨日はセルティに自宅まで送ってもらってから、今朝方ちかくまで寝てしまった…。
正直、熱は下がったものの、まだ頭がぼうっとしている私は、どこか他人事のように彼女の話に耳を傾けている。



「その中でも、最近はダラーズってグループがヤバいんだって」

「へえ、そうなの」



彼女が話しているのは、いま池袋で勢力を上げてきたと噂されているカラーギャングの話だ。



「でね、実はアタシも入っちゃったんだよねー」

「入っちゃったって…?ダラーズとかいうグループに?」

「そうだよ。だってカッコいいじゃん!彼氏も入ってるしさ」



彼氏がねぇ…また新しい子?まあ良いけど。
確か彼女は先週、恋人と別れたから生きている理由がなくなったと私に泣き付いてきた。



「あんまり危ない事に首突っ込まないでよね」

「ダラーズって、形だけでほとんど実態ないみたいだよ。危ない事してるのだって一部の奴らだし、平気だよ。
でね、良かったら姫乃ちゃんもダラーズ入んなよ!」

「…え?何で私が?」

「せっかくだから、彼氏とダラーズを大っきくしよーって事になってさ。今、メンバー増やしてるとこなんだよねー。
名前だけでも良いから入ってよ。ネットから入れるからさ」

「はあ…気が進まないな」

「いいからー!ちゃんとカウントして彼氏に何人集まったか報告するんだから、絶対入ってよ!?」

「もし帰宅した時に、私が暇で、その上で気が向いたら考えてあげても良いよ」

「ありがと!約束だからねっ。あ、やば。彼氏からメールだ。じゃ、私行くねー」



恋する乙女はちょっとした嫌みにも盲目らしい。

ダラーズねえ。
彼女が去った、嵐の後の静けさのような保健室で、何となく机の上のPCに目を向ける。
だいたい加入条件も手順も言っていかないで、何が『入ってよ!』だ。
まあ、暇つぶし程度にはなるかな。

何となく。

昼休みが終わって静かになった保健室で、起動したインターネットの検索欄に『ダラーズ』の文字を打ち込んだ。



「なんだ、意外と…っていうか期待外れ。
アドレスを登録するだけでメンバーになれちゃうとか…」



一発でヒットするとは思っていなかった。
おおかた入会条件は現メンバーからの紹介や直接招待といった所だろう。
そう考えていた私の期待を打ち砕くように、ダラーズ専用サイトはあまりにもあっさりと発見できてしまった。



「つまんないの。…ん?」



インターネットのブラウザを閉じようとした時に、もう一つ、ダラーズのサイトを発見した。
先程と違い、クリックをするとパスワードの入力画面が現れる。

ふーん…
こっちはパスワード制な訳ね。
こちらが本物のサイトなのだろうか…?



「んー…ちょっと暇つぶすだけだもんね」



久しぶりに、この感覚。
セキュリティをかいくぐって、目的の場所に誰にも気づかれる事なく潜り込む。
快感。
なぜか、昔からその行為に満たされた。



「別にデータを改ざんしようって訳じゃないんだから許してよ…?」



誰にでもなく呟いた声は静かな室内に消えていく。
久々の仕事以外でのクラッキングに、思わず胸が躍る。

ちょっとした出来心で、私は完全パスワード制の『ダラーズ』への侵入を開始した。



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