DRRR! !【連載】

□01×保健室
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01×保健室


「姫乃ちゃーんっ、今日も相変わらずキミは輝いてるっ」
「静かに。ここは保健室です」


毎日のようにココを訪れる男子生徒に冷たく言い放つ。
それでも彼はまだ懲りないらしく「つれないなぁ、でも、そんな硬いとこも含めてイイっ」なんて舞台俳優みたいな大げさなボディランゲージと共に台詞を吐く。
彼はまだ入学したての一年生だけれど、入学式の日に廊下ですれ違ってから、何かと私に絡んでくる。


「あのねぇ、私は君より年上であって、しかも先生なんだから‘姫乃ちゃん’はやめなさい」
「じゃあ…姫乃?」
「やめんか、コラ」

「き、紀田君…もうやめときなよ」


そこで、私と言い合っていた少年とは別の生徒が控えめに口を開く。この子は初めて見る顔だ。


「紀田君のお友達?保健室来るのは初めてだよね?」
「えっ、あ、はい。あの、竜ヶ峰っていいます」


すごい名字だ。いや名前?何だかペンネームみたいなソレに、思わず私は目を瞬いた。
あれ、うちのマンションのエアコンの名前、確かそんなんじゃなかったっけ。


「エアコンみたいな名前だねぇ。それ本名?」
「えっ…」


私の言葉に「竜ヶ峰くん」は一瞬固まる。


「あ、ごめんね。気にしてた?」
「いえ…慣れてます。良く言われるんで」
「エアコンみたいな名前だって?」
「…いや、すごい名字だねって」


竜ヶ峰くんは苦笑しながら答えた。
あ、うちのエアコンは‘霧ヶ峰’か。三●電機の。


「下の名前は何て言うの?」


微妙な笑顔を浮かべたままの竜ヶ峰くんに再度質問を投げかける。
見た所大人しそうな子だ。
こういう子はなかなか喋ってくれないので、まずは話しやすい雰囲気を作るために答えやすい質問で誘導してあげる。
…おっと、つい職業病が。


「…っ、帝人です」


少し言い淀んでから彼は答える。これはまた…名字と名前を並べたら、やたら仰々しい雰囲気になる名前だこと。


「はじめまして。私はココで保険医兼スクールカウンセラーやってます、倉伎姫乃です。何か相談事があったら遠慮なく来て良いからね、帝人くん」

「あ、ありがとうございます」


言いながら右手を差し出すと、帝人くんも自然な笑顔で握手を返してくれた。
私の仕事は、この来良学園の保健室でのスクールカウンセラー。
一応、看護師免許も取得しているので養護教諭も兼任している。


「おいおい、なんで毎日足しげく通ってるオレが‘紀田君’で今日来たばっかの奴が‘帝人’なんだよ」


今まで大人しく私たちの会話を聞いていた紀田正臣が抗議の声を上げた。

帝人くんに比べて、紀田君は黙っていても色々話してくれるタイプだ。
軽いように見えるけれど、こういう子に限って一度悩みを抱え込むと一人でどうにかしようとしがちなんだよな…と内心での彼の精神分析を中断し、紀田君に向き直る。


「え、だって。紀田君、私のタイプじゃないんだもん」
「なにーっ…ショック。姫乃ちゃん、帝人みたいのがタイプなの?」
「冗談だよ、ただ何となく。‘竜ヶ峰くん’て長いし」
「わかった、じゃあオレも明日から長い名字に改名してくる」
「勝手にどうぞ」
「冷たっ!」



ピピピピ…



そこで机の上に置いた携帯が鳴る。着信音の設定で誰からの連絡かは送信相手を確認しなくても分かった。


「あれぇ、姫乃ちゃんて携帯の着信は初期設定のままにするタイプ?」


興味深げに紀田君が私の手元にある携帯をのぞき込んできた。


「相手別に変えるタイプ、だけど?」
「なるほど。じゃあ、今のは割とどうでも良い相手からだ」
「え?」
「彼氏とかだったら、もっと可愛い着メロにするっしょ。と、言う事で放課後デートしようよー」
「残念でした。これから、そのどうでもいい人と待ち合わせなの」
「マジでかっ!…じゃあ、今日こそは携番おしえてっ」


両手の平を自分の前に合わせて頼み込むような体勢の紀田君に何だか笑ってしまう。


「また後でね。さっ、早く帰りなさい」


その後も諦めの悪い紀田君を帝人くんが引きずる様に保健室を出て行った。
勤務時間はもう過ぎているので私も帰宅準備をする。

携帯を確認すると、先程の着信音と共に届いたメールが受信ボックスに入っていた。
何行か文章が打ち込まれていたけれど、待ち合わせ場所と時間だけ確認して直ぐに画面を閉じた。


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