DRRR! !【連載】
□18×ポーカーフェイス
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18×ポーカーフェイス
着替えて戻ると、臨也は何やらデスクワークに励んでいるようだった。
パソコンに向き合って仕事モードといった様子で私の存在などまるで無視。
まだダルさはあったけれど、今にも倒れそうと言う訳でもない。
家に帰ろうと思い荷物をまとめている所で久々に臨也が言葉を発した。
「昨日の話だけどさ」
顔を上げると、パソコン越しにこちらに視線を向けている臨也と目があった。
「俺が話した事、覚えてるかな?君は熱でふらふらだったから、それ処じゃなかったかもしれないけどさ」
言われて思い出す。
姉さんは、私への愛情などとっくに捨て去った。
彼は確かに私にそう言った。
「聞いてたけど…。特に驚く内容でもない。
…そんなのは、とっくに想像ついてたから」
嘘は吐いていない。
わざわざ言葉にされなくたって、分かってる。
けれど、不確定だった事実を告げられて傷付いていないかと言われれば、またそれは別の問題だ。
「成る程ね。確かに君だって彼女を恨んでいる訳だし、当然と言えば当然だよね。だけど…残念だよ。俺はもっと君の傷付く顔が見たかったのに。
ああ、別にサディズム的な意味で言ったんじゃないから。ただ、純粋に見てみたかったのさ」
「十分、サディストの台詞に聞こえるけど。…私を憎んで姉さんの気が済むならそれで構わない。
あなたの言うように恨んでいるのは私も同じだから」
「そこに僅かな家族愛が残っているかいないか…その差は大きいと思うけどね。それにしても、君も自虐的だよね。そういう趣味なのかい?
切ろうと思えば、病院のベッドから動けない彼女との縁なんて、簡単に切れると思うけどね」
それが出来たら、苦労しない。
「まあ、人間の心は理屈でどうこう出来るものじゃないからね。だからこそ面白い」
自問自答。
私の答えなど聞くまでもなく、彼は満足したように再びパソコンに向き直る。
机の上に置かれた彼の携帯が、着信を知らせるように振動した。
「それじゃあ、お大事に。バイバイ」
画面に目を向けたままで臨也が言う。
私はバッグを手に持つと、何も言わずに彼の部屋を出た。
さっき臨也に感じた違和感は、もう消えていた。
代わりに在るのは、人を小馬鹿にしたような態度の普段通りのポーカーフェイスだけ。
何だったんだろう…
もやもやとした気分のまま建物を出ると、思いがけず知り合いに出会った。
『大丈夫だった?姫乃ちゃん』
出口の前にバイクを横付けし、PDAをこちらに向けたセルティが立っていた。
「え、何でセルティがココに…?」
『臨也の奴に依頼を受けたんだ。急ぎで‘荷物’を運んで欲しいって』
‘荷物’とは言うまでもなく私の事だろう。
『具合悪いんだって?ごめんね、昨日やっぱり送ってあげればよかった。
体が冷えちゃうから、とりあえず乗って』
セルティに言われるまま、彼女のバイクの後ろに跨る。
これが依頼だからなのだろうか。
彼女はどうして私がここに居たのかとか、まだ臨也と関わっているのかとか…
面倒な質問は聞かないでくれた。
まだ頭痛は続いているし、いろいろ詮索してこないセルティの対応はありがたい。
自宅前まで送ってくれたセルティにお礼を述べ、久しぶりの我が家へ。
ベッドに倒れ込む。
そういえば、額に貼られた熱さましのシートをそのまま忘れていた。
そっと触れると、私の体温ですっかり温まっている。
貼られた時は、冷たくて気持ち良かったのに。
そっと目を閉じると、私は数分も経たないうちに深い眠りに落ちていた。
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