DRRR! !【連載】

□17×発熱
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なかなか鳴らない体温計のアラームを待っていると、目的の物を発見したらしい臨也が戻って来た。
手には何かの箱を持っている。

彼はこちらを一瞥すると、置きっぱなしになっていたコートを拾い上げ、私の背中に静かに掛けた。
そのまま私の座ったソファの背後へと歩いて行く姿を見上げていると、ピピピと検温が済んだ事を知らせる電子音が響いた。
手に取って確認しようとすると、後ろから伸ばされた腕が体温計を奪っていった。



「…38度6分」



彼が結果を読み上げ終わると同時に、体温計が差し出される。
咄嗟に受け取って自分で確認してみても、当然同じ温度を示していた。

ふいに頭の上で、ペリッとフィルムを剥がす様な音がしたので振り返ろうとすると、額に冷たい物が押し当てられた。
少し見上げると、私の額に右手を置いたままこちらを覗き込む臨也と目が合った。



「今日は日曜なんだよねえ。日曜って事は大概の病院が閉まっちゃってる訳なんだけど。
どうしてもキツかったら、俺がいつも世話になってる闇医者でも呼んであげようか?」



額に乗せられたのは、熱さまし用のジェル状冷却シートだ。
冷えピタとか、そんな感じの。
さっきから臨也が探していた物はコレだったらしい。

ひんやりとして、気持ちが良い。ぼうっとしていた頭が少しスッキリしてきた。

わざわざ「闇医者」という単語を持ち出して‘新羅’の名前を伏せている辺り、臨也はまだ私が彼のことを引きずっていると踏んでいるのかもしれない。



「闇医者って……新羅だって忙しいだろうし、悪いよ。それに…昨日会ったよ、新羅に」

「へえ。それは意外だね。てっきり避けてるのかと思ったよ」



そっと持ち上げた手を、未だ私の額を押さえるようにしている臨也の右手に重ねると、彼が僅かに笑顔の色を変えた。



「残念でした。…私、臨也が思っているほど未練がましい女じゃなかったみたい。意外と、大丈夫だったよ」



彼は、ただ私の言葉を黙って聞いている。



「意外と大丈夫だった事に、むしろショックを受けてる。これで振り出し。ねえ…人を愛するってどういう気持ち?」

「確か、前にも同じことを君に聞かれた気がするよ」

「…高校の時?」

「そうだね。月並みだけど、愛し方は人それぞれだし、人間の数だけ様々な愛の形があるから面白いんじゃないか。
俺はそう答えた気がするんだけど。…君がその後で俺に言った言葉を覚えてるかな?」

「……」



私が答えずにいると、臨也は少し肩を竦めるようにして小さく息を吐いた。



「覚えてないだろうね」



そう言うと同時に、彼の右手も私の頭からぱっと離れる。

私は少し驚いていた。
一瞬見えたその表情がいつもと違うものだったから。
咄嗟に振り返ろうとすると、目の前が真っ暗になった。


「…え…っ!?」


何事かと思ったけれど、どうやら先程背中に掛けてくれたコートのフードを頭から被せられたらしい。
まだフードの上から頭を押さえられているようで、相変わらず私には何も見えなかった。


「私、何か…」


言った?そう問おうとする前に臨也が先に口を開いた。



「さて、君は俺に一体何と言ったでしょうか?ああ、選択肢は出さないから自分で考えてね。
そうそう。ちなみに言っておくと、俺はこれまでその台詞を忘れた事はなかったよ」



手がどけられたので、ゆっくりとフードを下ろすと、そこには何時もと変わらぬ笑顔を浮かべた臨也の姿があった。
本心を悟られない為に貼り付けたような、そんな笑顔。

あの時。
さっき一瞬、その笑顔が消えた気がした。

あれ…もしかして…怒ってる?
どうして、自分がそう思ったのか分からない。

彼が特別、不快感を表情に出した訳でも、態度に表した訳でもない。
ただ、直感でそう思った。

私の知っている折原臨也という人間は常に漂々としていて、どこか他人を俯瞰しているような態度で接する。
私は、彼が他人に対して自分の感情をあらわにしている所など、これまでに見た事が無かった。
だから、さっき臨也に感じた違和感の正体が私には分からない。
答えを出せないまま、もしかしたら機嫌を損ねたのかも…という推測に辿りついた。


ピピピー…


私が一人、脳内で考えを巡らせていると室内に電子音が響いた。



「…服、乾いたみたいだから着替えたら?」



メールでもしているのか、携帯に文字を打ち込みながら臨也が呟いた。
どうやら、さっきの音は乾燥機のアラーム音だったらしい。
彼は私には視線を向けないまま、左手で部屋の出口の方を指差している。
その方向にはバスルームがあり、確かそこに乾燥機もあった。

なんか…めちゃくちゃ素っ気ない。

言われるままにバスルームまで行き、乾燥機のフタを開けると、ちゃんと私の洋服が乾いていた。
自分の服に袖を通しながら、いつもと違う様子の臨也にどう接したら良いのか思案している自分に気付いた。


一体…私は彼に何を言ったのだろう…。


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