DRRR! !【連載】

□17×発熱
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17×発熱 


この匂い、知ってる。

ふかふかとした柔らかい感触に包まれて、呼吸を一つ。

誰かを思い出させる香りが、鼻先をかすめた。

嫌いじゃない。

でも、ふと嫌な奴のことを思い出す。
ああ、そうだ、この香り…


「…っ痛…」


カーテンの隙間から差し込む光を視界に捉えたのと同時に、激しい頭痛で思わず顔を歪めた。
ひどく頭が痛い。
脈打つような痛みが、波打つように繰り返される。
枕に顔を埋めた所で、一瞬はっとした。


「あ…そうだ、この香り」


いけ好かない男の顔が脳内に浮かんだ。
強くはなく、仄かに香るそれは、良く知っている匂いだった。

と言う事は、ここは臨也の寝室か…

見慣れない部屋をぐるりと見渡して、昨日の記憶を辿ってみるけれど、あまり良く覚えていない。
あいつの話を聞いているうちに具合が悪くなって…それからの記憶が無かった。


そっと布団から出ると、ギシっとベッドが小さく音を立てた。
立ち上がると、ふわふわとした浮遊感とともに眩暈がする。
温かいベッドから出たせいか、寒気で体が震えている。だいぶ発熱していそうだ。

おぼつか無い足取りで、何となくウロウロと進んで行くと、見慣れた空間に出た。
パソコンの乗った机や黒いソファが並んだ情報屋のオフィスだ。
静かだ…部屋の主は出掛けているのだろうか?

壁に掛かった時計を見ると、針は朝の9時半を指している。
そこで私は再び眩暈を感じて、目の前のソファの背に手をついて何とか体を支えた。


「ん…ああ起きたの?」
「っ!きゃあああ!!」


急に声を掛けられて思わず派手に悲鳴を上げてしまった。
というか、ソファの上に仰向けに寝転がっていた臨也に気付かなかったので、一瞬誰かと思った。
臨也も私の反応が予想外だったのか、珍しく驚いたように僅かに目を見開いている。
顔の上に掲げるように持っていた携帯もその位置でキープしたまま、視線だけこちらに向けていた。



「…路地裏で強姦にでも襲われたみたいな悲鳴だね」



暫くして気を取り直したかのように臨也が口を開いた。
相変わらず寝転んだままの彼の上には、愛着しているコートが掛けられている。


「あ…ココで寝てたの?」


まだドキドキと鳴る鼓動が止まないまま、どうでも良い質問が口から滑り出ていた。



「そうだけど。隣で寝て欲しかった?」



携帯を弄りながら、さして会話には興味なさそうに彼が答えた。



「というか、感謝して欲しいね。意識のない人間を布団まで運んで着替えさせるのって、けっこうな重労働なんだぜ?」



言われて気付く。
そう言えば、何時の間にかずぶ濡れになった服から着替えていた。



「え…あの、私の服は…?」
「洗濯してるよ」
「じゃなくて…いつ着替えたの…?」
「だから、布団に運んだ時だって言ったろ?」
「…ぬ、脱がせたの…?」
「当たり前だよね。あのままの格好で寝られたら布団が濡れるし」
「……」
「別に下着まで脱がせた訳じゃないんだからさ。安心しなよ。今さら下着姿を見たくらいで君に欲情したりしないから」



あっさりとした口調で言われ、それはそれでどうなのよ?と、矛盾した返答が頭に浮かんだ。
そこで、やっと体を起こした臨也におもむろに腕を掴まれ引っ張られた。


「っ…んっ」


抵抗する前に何かを口に突っ込まれる。


「ちゃんと奥まで入った?あ、舌動かさないで。音が鳴るまで喋らないでね」


そう言い終わるとともに、ピッという電子音のような音が鳴る。
口に押し込まれたものが体温計だと分かるのに数秒かかった。
普通に渡してよ!と文句を言いたかったけれど、今はそれも叶わない。

仕方が無いので大人しくソファに座って検温が終わるのを待つ事にした。
座ってじっとしていると、余計に寒気を感じる。
思わず両手で腕を擦ると体が小さく震えていた。

さっきから何かを探すように部屋の中の棚や引き出しを開けては閉めると言う動作を繰り返す臨也の姿を眺めながら、明日学校行けるかな…なんて事を考えていた。

今日は日曜日だ。明日は出勤しなくては。

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