DRRR! !【連載】

□16×人ラブ!
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16×人ラブ!



「これ、使って」


部屋に入ると、声とともにタオルを投げ渡された。
かろうじてキャッチした白いタオルはフワフワしていて気持ちが良い。
わりと家事とかは難無くこなすタイプなんだろう。
臨也が洗濯とか想像すると笑ってしまうけど。


「休日の池袋は楽しかった?まあ、来良で働いてる君にとってはあまり変わり映えしないかもしれないけどさ。
ところで、ずいぶん可愛らしい絆創膏つけてるね。何か隠したいものでもあったのかな?」


とりあえず濡れた髪を拭いていると、わざとらしく話しかけられた。
やっぱり確信犯か、コイツ…。
にやりとした笑みを浮かべた臨也から差し出されたカップを受け取る。
温かいレモネードでも入っているようで、ほんのりとハチミツの香りがした。


「…死ね、変態」


感謝の言葉の代わりに暴言を吐くと、彼は更に笑みを深くしながら言葉を続けた。


「こっわいなぁ。今日はずいぶんと辛辣な台詞を吐くね。誰に教えてもらったかは知らないけど、慌てる君の様子を近くで見られなかったのは実に残念だよ。
昨日あれ程、少しは警戒心を持ちなよって警告してあげたのに、無防備に熟睡してたのは君の方なんだからさ。何されても文句言えないよね?
それと、俺はまだ死にたくないよ。出来る事なら永遠に人間を見続けていたい位だからね。
ああ、そういえば。雛乃ちゃん?相変わらず元気そうで安心したよ」



そこでいきなり姉の名前を出され、私は思わず目を見張る。


「…どういうつもり?わざわざ姉さんに会いに行くなんて」

「同級生の見舞いに行くのに特に理由なんてないさ。だけど何回か通っているうちに、彼女、面白いくらいにペラペラと色んな事を話してくれたよ。
誰だって家庭に一つや二つ問題を抱えているものさ。でも、君も大変だったね。君が過去の事故を通して何かしらの負い目を雛乃ちゃんに感じているのは知っていたけど、驚いたのは君たちの両親だね。
まさか、あそこまで明確に双子の片方だけを愛す事が出来るなんてさ」


私が口を噤んでいるのを良い事に、彼は更に舌の根を動かす。
事故の後、病室で両親が話していた言葉が頭の中で響いていた。
頭痛がするのは聞かされたくもない話を長々と続けられているからだろうか。
何だか、すごく気持ちが悪い。


「まあ、今はその愛情さえもほっぽり出して何処かへ行っちゃったみたいだけど?ああ、でも俺は君の方に問題があったとは思ってないよ?むしろ同情さえするね。
心から憎めないって言うのは辛いよね。いっそ憎悪の対象として見れたら楽だと思わない?」



少しずつ傷をえぐる様な言の葉がひらひらと落ちて行く。


「私は…」
「憎んで然るべき相手を恨み切れずにいるんだよね」


勝手に人の台詞を続けるように臨也が口をはさんだ。



「一つ良い事を教えてあげようか?」



そっと耳元で囁くように距離を詰められる。



「…君のお姉さんはとっくに君への愛情なんか捨て去ってるよ」



思わず顔を上げると、この場には不釣り合いなほど温かく微笑む男と目が合った。
まるで愛玩動物でも眺めるような表情だ。
急に見上げたせいか、ひどくフラフラする。



「仕方ないよね。そうでもしないと自分の心を保てなかったんだからさ。今の君みたいに他人を愛せなくなってからじゃ遅いから。
だけど…おっと、大丈夫かい?」



思わずカップを取り落としそうになった私の手から、それを取り上げて彼は更に話を続ける。



「だけど、俺は上手く逃げ道を作れた雛乃ちゃんより、君のぐちゃぐちゃになった感情の方が見ていて楽しいよ。人が葛藤する姿ほど面白いものは無いからね。
ああ、これだから人間を見る事は止められない!愛おしくてたまらないよ」


歪んでる。
少々、興奮気味に話す彼の言葉を聞きながら、自分の意識がすっと遠くなるのを感じた。

愛。それはどんな感情か。
人を愛するってどういう事?

分からない。


真っ暗な闇に体を飲みこまれる様な感覚に抗うことなく、私は静かに目を閉じていた。




「なんだ、具合悪かったの?まあ、せいぜい俺を楽しませてよ。おやすみ、姫乃」



意識を無くして床に崩れかけた体を支えながら、臨也が小さく呟いた。



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