DRRR! !【連載】

□14×鍋
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14×鍋 


リビングのテーブルにコンロを置いて、その上に土鍋を置く。
一家団欒という言葉を実感した記憶は遠い昔の事だけど、きっと、こんな感じだったと思う。
鍋から立ち上る湯気を眺めていると、新羅が思い出したように口を開いた。


「あ、でも、その後だったっけ?姫乃に臨也の奴が告白したのって」


その後、とは私が新羅に失恋した後だ。
あまり良い思い出とは言えない昔話を掘り起こされて、少し苦笑いしている私の顔をセルティが覗き込む。


『噂では聞いてたけど、本当なのか?あの臨也が告白って…想像できないんだが』


聞きづらそうにセルティがPDAを向けてきた。
でも興味津々な様子が明らかに見てとれる。
なんだか思い出話に花を咲かせる同窓会にでも参加している気分だ。



「あれを告白と言えるのかは分からないけど。かなりの上から目線で付き合ってあげようか的な台詞を言われた気がする。
しかも失恋後に屋上で飛び降りようかとしている女の子にだよ」

『って、やっぱり飛び降りようとしてたの!?新羅、お前が姫乃ちゃんに酷い事言うからだぞ』



鍋の取り皿を並べながら答えると、セルティは怒った様に新羅にPDAを突き付けた。
さいばしで鍋の様子を見ながら新羅が口を開く。


「え?そんなに酷い事言ったかな。あ、姫乃、春菊入れるから取ってくれる?」

「はい。言ったって。君が普通の人間である以上、僕は興味を持てないと思うって感じの内容だったかな」


野菜が入ったボールを新羅に手渡しながら答えると、なるほど!とでも言いそうな様子で新羅が顔を上げた。



「ああ!それで飛び降りようとしたの?」

「まあ、飛び降りた所で何にも変わらない事は分かってたから本気じゃなかった…と思うけど」



実際は、あそこで臨也に声を掛けられなかったら、どうしていたか分からない。



「でも、私が死んでも新羅は何も感じないだろうけど、きっとセルティは傷付くだろうなって思ったから。飛び降りなくて良かったよ」

『姫乃ちゃん…良かった、生きててくれて』

「女の子同士で友情を深めるのは結構だけど、僕だって心を痛めるくらいはしたと思うよ。
だってセルティが傷付いてたら、その痛みは分かち合わなくちゃ…っていだだだ痛いよセルティ…!」



セルティに脇腹を肘でぐりぐりと押され、新羅が黙る。



『でも、いったい臨也はどういうつもりだったんだ?その…姫乃ちゃんには失礼だけど、臨也に限って純粋な気持ちで告白したとかは在りえないと思うんだけど』

「まあ、明らかに何か企んでのことだったね」



私の代わりに新羅が答えた。



『姫乃ちゃん、よく承諾したよね。だって、高校時代から、あいつは今とあまり変わらなかっただろう?』

「ただ、何となく。私は新羅しか好きじゃなかったから、あとはどうでも良かったし」



私の答えにセルティが少し慌てるような素振りを見せる。



「ああ、大丈夫だよ、セルティ。あの頃の話だから。まあ、強いて言うなら、お姉ちゃんが臨也のこと好きだったから…かな」

『お姉さんが?』



関係あるの?とでも言いたそうな様子のセルティに新羅が声を掛けた。



「紆余曲折と言うかさ、セルティ。姫乃のとこもちょっと事情が複雑でね。
…さっ、肉が硬くなっちゃうから食べ始めようか!」



新羅の言葉で、その話題は終わり、ちょうど食べごろの鍋からは美味しそうな匂いが漂っていた。

三人で鍋を囲んで、久々に楽しい夕食の団欒を過ごせた。



後片付けも終わったので帰ろうとすると、二人が玄関まで見送りに出て来てくれた。



『姫乃ちゃん、よかったら、また夕飯でも食べにおいでよ』

「ありがとう、セルティ。新羅が嫌がらなければ、またお邪魔しても良いかな」

「僕はいつでも歓迎だよ!姫乃が居るとセルティも楽しそうだしね。それに、僕にとっても姫乃は数少ない友人の一人だから。
大事にしないとセルティに怒られちゃうからね」



新羅の言葉に『当たり前だ』とセルティが短く返した。



『送ってかなくて本当に大丈夫?』

「平気だよ。ちょっと、まだ寄るとこあるし」

『そっか。気を付けてね』

「うん、ありがとう。今日はごちそうさま」



見送ってくれる二人に手を振って、新羅のマンションを出た。


そろそろ臨也も戻ってくる頃だろう。
新宿駅から昨日の記憶を頼りに彼のオフィス兼自宅を目指す。



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