DRRR! !【連載】
□13×首なしライダー
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13×首なしライダー
真っ黒なバイクに跨り、真っ黒なライダースーツを身にまとった人物。
見知っている人物に、私は思わず彼女の名前を呟いていた。
「セルティ…」
『良かった。急に車道に出てくるから、どうしたのかと思ったぞ。顔色が良くないな』
池袋の首なしライダーこと、セルティ・ストゥルルソンがPDAをこちらに向けながら私の様子をうかがう様に首を傾げた。
「平気。なんかセルティの顔を見たら思いとどまった」
『私の顔…?というか、思いとどまったって、何をだ!?』
少しあたふたとしながらセルティがPDAに文字を打ち込む。
ほんと…何やってるんだろう、私。
「ううん、何でもないよ」
そう答えると、セルティは少し考えてから新しく文字を打ち込んだ画面をこちらに向けた。
『これから帰る所なんだが、少しうちに寄って行かないか?その、せっかくだから夕飯でも食べて行きなよ。新羅と二人だけで食べるより大勢で食べる方が賑やかだし』
そんな彼女の誘いを受けて、今に至る。
音もなく駆け抜けるセルティのバイクは何時乗っても気持が良い。
彼女につかまりながら、その温もりを感じていた。
首は無いのに、その辺の人間なんかより、よっぽど人間らしくて温かい。
きっと心配してくれてるんだろうな。私の様子が変だったから。
新羅に会うのはいつ以来だろう。
この前会った時の記憶を思い出そうとしているうちに、音もなくバイクが停止していた。
『今日は少し寒かったから鍋にしたんだ。新羅がもう準備していると思うから』
バイクをエレベーターに押し込みながらPDAを見せるセルティ。
鍋かぁ。鍋なんて大勢で食べるような料理は久しぶりだ。
エレベーターが到着したので、セルティの後に続いて彼女たちの部屋の前までやってきた。
彼女が扉を開けると部屋の主が歓声のような叫びとともに玄関口まで飛び出してきた。
「おかえり、セルティ!もう僕は君を待ち焦がれてどうにかなるかと思ったよ!」
『恥ずかしいから、やめろ新羅。今日は客人がいるんだ』
「え?お客?」
相変わらずの様子の新羅に苦笑していると、セルティの言葉を読んだ新羅が、彼女の後ろに立つ私の方へと視線を向けた。
「あれ、姫乃じゃないか!久しぶりだね。セルティが友達を連れてくるなんて誰かと思ったら」
「ごめん。おじゃまだと思ったんだけど、セルティが誘ってくれるからつい甘えちゃった」
「まさか、邪魔だなんて!僕がセルティの友人をそんな風に思う訳ないじゃないか」
セルティの友人と言うけれど、むしろ私が出会ったのは新羅の方が先だ。
セルティ中心で回る彼の世界に何を言っても無駄だけれど。
『新羅、もともと私に姫乃ちゃんを紹介してくれたのはお前だぞ』
玄関の戸をくぐりながら、少し語弊があった言い方にセルティが突っ込む。
「あ、そうだったね。だって、姫乃が僕に告白なんかするから、つい嬉しくって。その頃、セルティには外で友達を作れって言われていたからね。
僕みたいな奴でも好きになってくれた子が居たんだって事をどうしてもセルティに伝えたくってさ、それで…っ、何だいセルティ?」
昔の事を思い出したように語る新羅をセルティが慌てて止めに入る。
「いいよ、セルティ。もう気にしてないし。確かに新羅に告白したけど、今考えると、恋愛感情とは少し違ってたし。
まあ、あの頃は本気で新羅の事を好きなんだって思ってたから、告白を断られた挙句に、自分の想ってる女性を紹介されて死んでやろうかと思うほど傷付いたけどね」
『その、姫乃ちゃん…本当にごめん。私から新羅の分まで謝るよ』
申し訳なさそうに打ち込んだ文字を見せるセルティに笑顔を向ける。
「そうだよ、セルティ。僕は今もあの頃も変わらずにずっと君を愛しているんだから!」
『もういい。お前はしばらく黙っていてくれ』
「酷いよ、セルティ!」
彼らのやり取りを見ていると、何だか癒される。
そうだ。
あの頃の私は、自分に無いものを持っている新羅を心から尊敬して、いつの間にか恋愛感情にも似た気持ちを抱いていた。
こんなに誰かを一生懸命に愛する事ができる人が居るんだ、と。
でも、新羅自身に惹かれていた訳ではなくて、セルティをひた向きに愛する彼の姿に惹かれていたんだ。
だから、むしろ告白を断られて、人間とは異なる存在であるセルティを彼が愛していると知って、ますます新羅のことを凄いと思い、感動したのを覚えている。
まあ、高校生の女の子にとってはとても傷付くフラれ方だったけれど…。
それでも、セルティを愛し続けている新羅への尊敬の気持ちは今でも変わらない事は確かだ。
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