DRRR! !【連載】

□11×休日
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休日の池袋は相変わらず喧騒に包まれていた。
何が悲しくてせっかくの土曜にあんな奴のお使いをしなきゃならないのか…
不満を抱えながら、家電量販店を目指して人混みの中を進んで行く。

昨日は寝不足だったためか、少し頭がぼーっとしている。
そのせいかは分からないけれど、後ろから近付いて来る気配に気付けなかった。


「っ…!?きゃっ…」


いきなり抱き付かれたかと思いきや、後ろから胸をわしづかみにされた。
…って、何だ、この状況!


「姫乃さん、みっけー!」
「…昼(こんにちは)」


振り返ると、見慣れた双子が立っていた。
眼鏡を掛けて三つ網をした細身の女の子とショートカットで物静かな雰囲気の女の子。


「舞流、九瑠璃ちゃん…つうか、手を離せ、手を!」

「えー!だって姫乃さんのって触り心地が良いんだもん!ちょっと無防備な所も、つい手を出したくなっちゃうって言うか。だからさ、触らせて?」


胸を掴まれていた手を振りほどくと、妹の方の舞流が諦め悪そうに手を伸ばしてくる。
けれど、すぐに首を傾げて「あれ」と呟いた。


「姫乃さん、やっと新しい恋人出来たの!?ついにイザ兄も捨てられちゃったかー」
「疑(ほんとう)…?」


舞流の言葉につられる様に、九瑠璃ちゃんも私の方へ視線を移す。


「出来てないよ、っていうか…作る気ないからね」

「もったいないよー!姫乃さん、エロティカル美人さんなんだから!あ、でも変な男に捕られちゃうのは嫌だな。
だけど、じゃあ今日はもしかしてイザ兄の家から朝帰りだったりする!?」


いきなり何を聞いて来るのかと思えば…。
確かに昨日は彼女たちの兄、すなわち臨也のマンションに泊まったけれど、‘朝帰り’ってワードには抵抗がある。


「何でそうなるのかな…?」

「え、だって。ねえ、クル姉?」
「同(ねー)…」


問い返すと、九瑠璃ちゃんまで、控えめに舞流に賛同する。


「だって、ほら。この辺に痕残ってるもん!」
「痕…?」


自分の首筋を指差すように舞流が言うけれど、訳が分からず私は首を傾げる。
すると、九瑠璃ちゃんがにこりと微笑みながらバックから出した小さな鏡を差し出してくれた。
受け取った鏡で、自分の首元を確認してみる。
そして映ったモノを見て、臨也の奴に殺意が芽生えた。


「もー!ドッキドキだよ!それキスマークだよね?首元にキスマーク付けて歩いちゃうなんて、やっぱり姫乃さんてむっつりエロティカルなお姉さんだよね!」

「ちがっ…」


思わず首元を押さえてみるけれど、舞流は相変わらずキラキラとした視線を向けてくる。

私は、出掛ける時の臨也の行動を思い出していた。
何か様子が変だと思ったら…あそこで気付くべきだったんだ。

いやでも、昨日の夜、確かにキスはされたけど、そんなに強く…
そこまで考えて、私は今朝、自分が今と全く同じようなポーズで飛び起きた事を思い出した。
あの変態…私が疲れて熟睡してるのを良い事に朝から何さらしてくれてんだ!


「うちのヘンテコ兄貴のドコが良いのか分からないけど、私たちとしては姫乃さんが義理のお姉ちゃんになってくれるのは大歓迎だよ!」
「…肯(うん)…」


両側から双子に手を取られて見上げられる。
とても可愛らしい光景だけれど、素直に喜べない。


「だから違うって…」


あまりに無邪気な瞳に見つめられて私は思わず目を逸らした。


「じゃあさ、むしろイザ兄はどうでも良いから、姫乃さんだけでもお姉ちゃんになって!クル姉と姫乃さんと一緒に寝たら、すごく気持ち良いと思うんだよね!楽しみっ!」


一緒の布団なんかで寝たら、絶対セクハラされるだろうな、と内心で思いながら苦笑いで答えた。


「そうだね。臨也が死んでくれたら考えても良いよ」
「ホント!?やった!今度イザ兄に会ったら命を狙っておくね!」


舞流がとても実の兄に対してとは思えない台詞を笑顔で吐く。


「あ、ところで、今日は池袋に何か用があったの?」


この話を続ける気も無かったので、私は話題を変えてみた。


「そうそう!今日ね、幽平さんが池袋でロケをやるって書き込みをファンサイトの掲示板で見つけてさー!だから見に来てみたんだけど!でも、いまいち場所が分からなくって」

「そうなんだ。見つかると良いね。ほら、早く探しに行かないとロケ終わっちゃうよ」

「そうだよね!せっかく幽平さんを近くで見られるチャンスだもんね!姫乃さんとは、また今度ゆっくりお話しする事にして、急ごうクル姉!」


そう言って慌てた様子で舞流が九瑠璃ちゃんの手を取った。


「別(さようなら)…」
「ばいばーい、姫乃さん!」


振り返ってこちらに手を振る双子を見送る。
彼女たちの姿が人混みの中に消えてから、私も歩き出す。首元に手を当てたおかしなポーズのままで。


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