DRRR! !【連載】

□10×フレンチトースト
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10×フレンチトースト


少し、寒い。
薄手のコートを体に掛けて、猫のように体を丸める。
窓の外はうっすらと明るくなっていて、もうすぐ夜明けが来るらしい。
春とは言っても早朝はまだ肌寒い。
ぼんやりと意識がかすむ中、私は再び目を閉じた。


「んん…体痛いー…」


寝心地の悪さに目を覚ます。私の布団、こんなに硬かったっけ?
でもこの際、生理的欲求を満たす事が最優先。
まだ眠い。
まどろむ様に眠気に身を任せていると、不意に走った痛みが私の意識を一気に覚醒させた。


「いっ、痛っ…!?」


何が起こったのか解らなかった。
とりあえず反射的に一瞬痛みが走った場所―首の辺りを右手で押さえながら飛び起きていた。


「おはよう。気持ち良さそうに寝てるとこ悪いんだけどさ、そろそろ起きてもらえるかな?」

「なっ、なな何でっ、臨也が居るの?…こ、ここドコ…ちょっと待って、え…?」

「面白い反応するね。まだ寝ぼけてるのかい?」


慌てて起き上がる私の様子を眺めながら、何故か目の前に屈んでいる折原臨也が口を開いた。


「質問に答えてあげると、ここは俺の家だから、むしろ君が居る事の方がおかしいと思うよ。まあ、昨日帰るなって言ったのも俺だけど。
仕事は全部終わらせてくれたみたいだね。相変わらず手際が良くて感心するよ。ああ、でもソファで寒そうに寝てる君の姿は、まるで捨て犬みたいだったねえ」


つらつらと紡がれる台詞を聞いているうちに、昨夜の事を思い出す。
強制的に臨也の家まで連れて来られて、それから仕事をさせられて…そうだ。
言いつけられた案件を終えて、そのままこのソファに倒れ込んだんだった。


「シャワー使っていいから、すぐに出かける支度してくれる?はい、コレ」


手渡されたのは、小さなメモ。
その紙には箇条書きにされた何かのリストが綴られている。


「…パソコンの周辺器具…?みたいだけど、これが何なの?」

「そこに書いてあるものを池袋で調達して来て欲しいんだけど。ほら、俺が行くとシズちゃん怒るからさあ。怖い怖い」

「私に頼みたい事って」

「これだよ」

「だったら一回家に帰っても良かったんじゃ…」

「そうだねえ、特に泊まってもらう意味もなかったけど。あえて言うなら、君がちゃんと俺に従うか確かめてみたって所かな。それに仮に電話で用件を伝えたとしても大人しく買い物して来てくれるとも思えなかったし」

「確かに。まず電話にさえ出ないと思う」

「だよね。そんな事だろうと思ったけど、さすがに目の前で言われると傷付くなあ」


どこが?

全くショックを受けている様子など無いばかりか、至極楽しそうに言う彼に何故か私の方がイライラさせられた。




***


「…んー…何か良いように使われている気がする」


頭からシャワーを浴びながら呟いた音は、排水溝へと流れる水とともに消えた。

大学を出て、来良で働くようになって少し経った時だった。折原臨也に再会したのは。
姉の入院費で困窮していた私は、大学在学中から法律ギリギリの方法でお金を稼いでいた。
ネットで呼びかけて合法ドラッグの密売サークルを作ったり、そこで知り合った人間からの依頼でクラッキングを行ったり。
今考えると、よく何も考えずに危ない橋を渡っていたものだ…

そんな時、臨也の情報網に引っ掛かって、彼の仕事を手伝わないかと誘われた。
報酬は良いし、依頼を受けたりするのは臨也であって、私はただ言われた仕事だけこなしていれば問題ない。
素人がヤバい事に首を突っ込むのは危険なので、私としては今の環境はありがたかった。

だから、利用されていると分かっていても、彼から離れられずにいる。


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