DRRR! !【連載】

□08×ナイフ
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08×ナイフ



「やれやれ…、これは出なきゃマズイかな」


そう呟き終わると、臨也はポケットから取り出した携帯をそのまま耳に当てた。
どうやら先程の振動は携帯のマナーモード時のバイブのようで、彼の様子からすると、音声着信があったらしい。


「どうも。久しぶりですね」


私の上に跨ったまま、臨也は電話の相手と話し始める。
会話の内容が聞こえてくるけれど、隠語が多用されていて私には何の話かサッパリ分からない。
ヤツが電話をしている隙を見て上半身を起こそうとすると、気付いた臨也が電話相手と会話を続けたまま私に向かって右手をかざした。


「っ……」


同時にひんやりとした感覚が首筋に走る。
どこに潜ませていたのか、彼が掲げている右手には何時の間にか小振りのナイフが握られていた。
そして、光る刃先は私の喉元にぴったりと押し当てられている。
私が静止したのを確認すると、彼は電話の相手と会話を再開した。

電話しながらも、時折いたずらに動かされるナイフの先は滑る様に肌の上をなぞる。
その為、私は身動き一つ出来ずに大人しく電話が終わるのを待つハメになった。


「…趣味でやってるにしても、献身的な仕事だよ。金曜の11時過ぎだって言うのにさ」


電話を切った画面を眺めながら、先程までの営業用のトーンから少し下がった声色で臨也が呟いた。
同時に、突き付けられていたナイフは私から少し離れる。


「ああ、ゴメンゴメン。電話中に声でも出されちゃ困るからさぁ。大人しくしていてくれて助かったよ」


そして携帯を空いているソファに投げてから、こちらに視線を向けた。


「ところで、随分と扇情的な格好だけど、シャツのボタンくらい閉めても良かったよ?」


そう言えば、忘れていた。
…と言うか、首筋に当てられた物騒なモノに気を取られてそれ処では無かった。
慌ててはだけたままのブラウスの前を合わせるように両手で引き寄せた私を見て、臨也はくつりと喉の奥で笑う。
少し睨むように見上げていると、彼は感慨深そうに私を見下ろしながら「例えば…」と口を開いた。


「街中で知らない男に拉致されちゃって可哀相な目に遭う女の子ってさぁ、今の君みたいな顔で犯人を睨みつけるんだろうね」


その言葉に思わず背筋がゾッとする。
臨也がこちらにナイフを持っていない方の左手を伸ばしてきたので体を強張らせていると、そっと右の頬に手を添えられた。


「そういう子って、つくづく可哀想だと思わないかい?」


顔にはニヒルな笑みを浮かべているが、小さな子供に言い聞かせるような声色で彼が言う。
とても同情しているようには見えない。

この人は、何を考えているか解らないから怖い。
彼がこれから何をしようとしてるのか想像すると、寒気がした。


「臨也…?」

「やっと自分の立場が分かってきた?行き先も分からずに大人しく着いて来る所を見ると、多少なりとも俺を信用してくれてるのかな。
でも一つ忠告すると、そう簡単に他人を信用しない方が良い。情報屋としての俺を信頼するのは結構だけど、折原臨也という人間個人を信用するのはおススメしないね。
言ってる事、解かるかな?」


私は彼を信用していたのか。
はっきりとは分からない。けれど、何も考えずにのこのこ着いて来てしまったのは事実だ。

私が無言のまま頷くと、臨也はにっこりと胡散臭い笑顔を浮かべた。
初めて会った人間を安心させる為に貼り付けたような、そんな笑顔を。


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