DRRR! !【連載】

□07×弄ぶ
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06×弄ぶ


「え、ここ…ドコ?」
「大人しく着いて来るから黙ってたけど、見て分かるよね?」


そう問いかけられて、もう一度、今自分が居る空間を見渡す。
横にあるソファに投げ掛けられた彼のコートが視界に入ると、次の瞬間には脳内に嫌な回答が浮かんでいた。
まさか、ここは…


「その顔は、いま自分が居る場所が何処だか理解出来たってことかな?」


声につられて顔を上げると、いつの間にか声の主は私の目の前まで来ていた。
何時ものように貼り付けられたような笑顔で見下ろされる。

嫌な予感がして後ろに距離を取ろうと足を動かす前に、彼に右手を掴まれていた。
それから背中にソファの柔らかい弾力を感じるまでは数秒も掛からなかったと思う。


「さて、君は今、自分の軽率な行動を省みている所かな?それとも、まだそこまで頭が回ってないか…。ここに入る前に聞いてあげたよね?着いて来るか来ないかってさ。
何も言わずに連れて来たけど、最終的に判断したのは君なんだからさ。悪く思わないでよ」


相変わらず私を見下ろしながら、臨也が哀れみでも含んでいるかのような表情で滑らかに言葉を紡いだ。
そんな表情とは裏腹に、彼の手はしっかりと私の両手首を押さえつけている。

私は、いとも簡単にソファの上に押し倒されていた。
抵抗しようにも、上から押さえ付けられた手は力負けして全く動かないし、自由に動く足でもがいてみても虚しく空を蹴るだけで何の抵抗にもならない。


「のこのこ大人しく着いて来ちゃって、自分は何て馬鹿だったんだろう、とか考えてる?君は頭も切れるし勘も良いのに、警戒心に欠けるよね。俺は常々心配してるよ、君のその無防備さには。
あ、でもさっきの君の顔は、すごく面白かったよ。で、質問の答えなんだけど、ここは俺の仕事場、まあ事務所だね。生活拠点でもあるから、ほとんど自宅みたいなものなんだけど、君の答えは合ってたかな?」


まさに今の心境を言い当てられて、私は何も言い返せなかった。
というか、一方的に喋られたので吐き出された言葉たちを理解するので精一杯だ。


「な、何の…つもり?」


やっとの事で出てきた私の言葉を聞いて、臨也は肩をすくめる様に小さく息を吐く。


「教えてあげようか?」


そう言うと、臨也はおもむろに体勢を低くした。
まさに目と鼻の先に彼の顔がある状況で私が動けずにいると、そのまま唇を押しあてられる。


「…やめてっ…」


私が反射的に顔を背けると触れるだけのキスで直ぐに唇が離れた。
しかし、今度は先ほどよりも強引に唇を重ねられる。
息苦しさを感じていると彼が少しだけ顔を持ち上げた。
まだ唇は触れるか触れないかの至近距離にある。


「口あけて」


声と共に吐き出された少し熱を帯びた彼の息が私の唇に当たる。
その言葉に従う訳では無かったけれど、空気を吸い込む為に開いていた唇を閉じる前に、再び口を塞がれた。
ぬるりとした感触が口の中を這う。他人の舌に口内を弄ばれる感覚に体がゾワリとする。

苦しい。

視界がかすむのは、上手く呼吸が出来ない息苦しさで涙が出てきたからだろうか。
ずっと押さえ付けられたままの手首も痛い。
頭もぼんやりしてきて、自然と体からも力が抜けていく。
いつの間にか抵抗するのを止めていた。

身体が、熱い。

それに、不思議とコイツに無理やりキスをされてると言うのに、そこまで嫌な感じはしなかった。


お互い恋愛感情もないのに恋人同士を演じていた高校時代も、こうしてキスをされたり抱きしめられたり、いわゆる‘恋人たちがする行為’をする事にも私としては特に抵抗もなかった。
人間に対して歪んだ愛情を彼が抱いている故に、それが虚しい程、平等に向けられた愛情だったとしても、愛されていると感じたからか。

私には分からない。

けれど私は、今も昔も、折原臨也という人間が好きではない。
自分でも矛盾していると思うけれど、彼に対して好意と呼べる感情を持った事は無かった。


「へぇ、あまり嫌がらないんだね?」


いつの間にか顔を上げていた臨也に声を掛けられて、ふと我に返る。
無表情な瞳で私を見下ろしたままの彼の右手が静かに私の左の手首から離れた。

もう抵抗を諦めたと思ったのだろうか。
私はその男の人にしては綺麗な手の人差指に光るシルバーのリングを何となく目で追っていた。
そして、その手はゆっくりと私の着ているブラウスのボタンに掛けられた。
一番上のボタンを片手で器用に外される。

反射的に、解放された左手で彼の右手を掴んだけれど、それを無視して作業は続く。
3つ程、ボタンを外された所で手が止まったかと思った束の間、今度は首筋や胸元にキスを落とされる。


「っ…んっ、…」


思わず私が身をよじった時、静かだった空間に機械が振動するバイブのような音が響いた。
臨也の動きが止まる。
煩わしそうに吐き出された彼の息が、私の首筋にかかって、くすぐったい。


…溜息を吐きたいのは私の方だ。

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