DRRR! !【連載】

□05×いやがらせ
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05×いやがらせ



「毎度ネー。二人ともまたイラッシャイ」
「ごちそうさま、サイモン」

大きな体に似合わず、手を振って陽気に見送ってくれるサイモンと別れて駅へと向かう。

私の家は高円寺なので、新宿を拠点としているこのいけ好かない情報屋とは、無論、同じ方角に歩き出すハメになる。
少し早足に歩き出すと、すぐに後ろから腕を掴まれた。


「っ…ちょっと、離して」
「どこ行くの?あぁ、金曜の夜だし誰かと約束…は無いか」
「ちょっと、勝手に決めないでよ。私だって…」
「たしか今現在、君に待ち合わせをするような恋人はいなかったと思うけど。馴れ合うような友人も居ないしね。…まぁ、ごく一部の化物を除いてはだけど」


「どうしてそれを?」と言う疑問はコイツの前では愚問すぎる。
‘化物’とはシズちゃんの事だろうか。

私が答えられずにいると「おいで」と言って、そのまま車道の方まで引っ張って行かれた。
慣れた様子でタクシーを捕まえたかと思うと、扉の開いた車内へと押し込まれる。
運転手の「どちらまでです?」という問いに私が反応する前に、臨也が答えた。
「とりあえず出してくれる?」と言う彼の様子を呆然と眺めていると、何故か臨也までタクシーに乗り込んで来た。


「…ドコ行く気?」
「着いてからのお楽しみ」


にやりと笑う彼の表情はひどく楽しそうで、私は思わず息を呑み込む。背中にヒヤリと冷たいものを押し当てられたように一瞬体が強張った。
それと同時に、タクシーはエンジン音を響かせながら発車する。
私はせめてもの抵抗で、ドアにピッタリとくっついて出来る限り臨也からは距離をとって座っている。


「ところで、どうしてあんなに嫌いなネタばかり頼んだのか聞いても良いかな?」


私の隣で前を向いたまま臨也が口を開いた。
さっき露西亜寿司で私が頼んだ寿司ネタが気になったらしい。
「高いネタ」とのオーダー通り、運ばれてきた寿司ネタは高価なものばかりだった。

けれど、ウニとかアワビとかイクラとか…私は生の海鮮は苦手だ。唯一、お寿司屋さんでも苦手な部類に入らないネタは甘い卵焼き。
当然、私が頼んだお寿司は余ったのでお土産として持たせてもらってきた。


「いやがらせ」


答えると、臨也は私を一瞥してから小さく笑った。
今日みたいに呼び出された日は、決まって彼が食事代などを負担する。
今日もその流れだと思ったので、わざと高いネタを頼んでやった。
まぁ、これくらいの出費は悪名高い情報屋さんには痛くも痒くもないだろうけど。


「相変わらず。面白い事をするね、君は」


持たされたお寿司のお土産を指先でポンポンと叩きながら、臨也は気を悪くする様子もなく呟いた。


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