DRRR! !【連載】

□04×情報屋
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04×情報屋


目の前で饒舌に喋る青年。
会って5分も経たないうちに、すでに心的疲労を感じていた。

彼は何の話をしていたっけ?

そうそう、私が27分遅刻したとかしないとか。
そんな事を考えていると、ふいに目が合ったので、一応謝罪はしておこうと思う。
確かに遅刻したのは私の方だし。


「どうも遅れてすみませんでした」


事務的に返すと、彼は口端を持ち上げるようにしてテーブルの上に肘をついて頬杖をつく。
テーブルはそれほど広くはないので、そんな風に身を乗り出されると、急に自分のスペースが狭くなった気がして私は少し後ろに体を引いた。
そんな私の様子を眺めて、彼は楽しそうに目を細める。
居心地の悪さを感じていると、ちょうどサイモンがオーダーした料理を手に顔を出した。


「ごゆっくりネー時は金ナリよ。たくさん注文するとイイヨー」


よく分からない使い方の間違った日本語で挨拶を済ませると、再びサイモンは仕事場に戻っていく。


「へぇ、これはまた色づかいが斬新な料理だねー。こういう作り手の個性が見える料理って嫌いじゃないよ。
あからさまに高そうなネタばかりだけどね」


そう言いながら、彼は人が注文した料理から勝手にキャビアが乗った軍艦巻きのような握りに手を伸ばす。
黙って見守っていると、そのまま自身の口へと放り込んだ。


「見た目は別として味は良いね」
「折原さん?」


抗議の意味を込めて彼の名を呼ぶと、何事も無かったように寿司を食べ終えた彼がこちらに目を向けた。


「さっきから思ってたんだけど、随分と他人行儀な態度だよね。まぁ、君に好かれているとは思ってないけど。
あぁ、もしかして緊張してるのかな?会うのは確か一カ月半ぶりだけど、仮にも高校の時、恋人だった相手に対する態度には見えないね」

「……」

「もっとも、君も他に好きな男が居ながら俺と上辺だけでもそういう関係にあった訳だから、見る人によっては俺も被害者の側になると思うんだけど。
そういえば、まだ好きなのかな?彼のこと」


問いかけられて思わず伏せていた視線を上げると、さっきから多弁な男と目が合う。
はたから見れば人好きのしそうな爽やかな笑顔ではあるけれど、コイツの腹の中は真黒だ。


「まぁ、お互い恋愛感情を伴っていたかは、また別の話だけどね。それでも形だけ、形式上では付き合っていた事になる。
もっと直接的な言い方をすると、そういう行為はあったしね?」

「臨也っ…食事が不味くなるような話はやめてくれる?」


思わず下の名前で呼ぶと、彼―折原臨也は満足そうに口もとに弧を描く。
そして更に言葉を続けた。


「おっと、ごめん。これは君の消したい過去だったかな?俺としては君の感情にとても興味があったから近くで観察できるのは実に楽しかったけどね。
…さて、と。お喋りはこの辺にして、仕事の話を始めても良いかな?」


今まで一方的に話していたヤツの台詞とは思えない。
私が無言でいると、それを肯定の意味で取ったらしい折原臨也は言葉通りに仕事の話を始めた。


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