DRRR! !【連載】

□03×露西亜寿司
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03×露西亜寿司


西口から東口方面へと戻る。
時計を見ると待ち合わせ時間を15分過ぎていた。
もともと行きたくない気持ちも相まって、公園でのんびりし過ぎたな…


太陽がビル群の合間に落ち、池袋の街はすっかり夜に包まれた。
まぁ、街頭や店の看板、車のライトがギラギラと輝いているので十分に明るいけれど。

約束の店の前までやって来ると、強面で大柄な黒人がビラ配りをしている所だった。


「お客サン、寿司食いネー、あれ姫乃ーオヒトリサマでも歓迎ヨー」


片言の日本語で客引きをしているのは、ここ『露西亜寿司』の店員―サイモン・ブレジネフだ。
仕事帰りによく一人で寄っているのは事実だが、なんかそれじゃ、私が友達いないみたいな言い方じゃないか!


「おじゃまするよ。それに今日は一人じゃない。…仕事の打ち合わせだけど」
「おおー寄ってキマスカー。これ割引券ドウゾ」


受け取った割引券を片手に、やけに派手な外観の寿司屋の扉を開ける。
ロシア王朝の宮殿を思わせる内装に似合わない純和風の寿司カウンターが店内で異彩を放っていた。


「いらっしゃい。あぁ、もう来てるぞ。奥の座敷だ」


店内に入ると、カウンターで何やら作業をしていた白人の板前から声が掛かる。
彼はこの『露西亜寿司』の店主でもあるデニスだ。
親指を立てるようにして彼が指し示すのは店の奥の方に位置する個室。


「あ、とりあえず卵と…あと高いネタ握ってくれる?」
「はいよ」


店内に客は少ない。
こんな怪しげな店構えだ。初めて入るのには勇気が要るだろうし、客引きがサイモンじゃ余計にコワイ。

注文だけ済ませた私は、デニスに指示された座敷へと向かう。
そっと中をのぞき込むと、すでに到着していた待ち合わせ相手が、テーブルの上の寿司に手を伸ばしている所だった。


「やあ、ようやく来たねぇ。嫌われたのかと思ったよ」


こちらには目を向けずに、黒髪の男が声を発した。
眉目秀麗という言葉がよく似合う、キレイな顔立ちをした青年だ。

先ほど手に取った大トロの握りを口に運んで、満足そうに食している。
彼の前に並ぶ他の寿司ネタを見てみても、やはり全て大トロだ。

私が黙って席に座ると、寿司を飲み込み終えたらしい彼が再び口を開いた。


「27分遅刻。まぁ、こっちから呼び出してる訳だから来てくれる分には一向に構わないけど。仕事が押したか、俺に会いたくなかったか、まぁ君の職場を考えるとおおかた後者の理由だろうけどねぇ」


まだ私は一言も発していないのに、よくもまぁ一人でペラペラと喋る。
語られる言葉を他人事のように聞きながら、私は内心で溜息を吐いていた。


…この人、苦手。

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