DRRR! !【外伝】
□新入部員
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「…折原くん?」
どうしようか悩んだ挙句、姫乃は助けを求めるような視線を臨也に送っていた。
「ん?ああ、俺の名前覚えられたみたいだね。
そうだね、新羅、君と同じ理由だよ。彼女が生物部に入りたいのはさ」
「そうなの?」
臨也の言葉に新羅が僅かに首を傾げながら答えた。
「適当にやれる部活に入りたかったんだよね。違うかい?」
「あ…うん、そ、そう」
臨也に目を向けられ、首を縦に振りながら姫乃が答えた。
「なんだ、それなら大歓迎だよ。僕も適当に出来るにこした事は無いからね。
あ、そうそう、僕の事は新羅で良いよ。俺は倉伎さんて呼ぶけど。
じゃあ、今日は部活休むから。あと宜しくね、折原くん」
新羅はそう言い残すと、そそくさと教室を後にする。
さも当たり前のように部活欠席を宣言して帰宅する部長の姿を見送った後で、姫乃は隣に立つ臨也にちらりと視線を送った。
直ぐに目が合ったのは、もともと彼が姫乃の方を見下ろしていたからだろう。
「楽しそう。私の事、嫌いみたいだね、あなた」
無表情に姫乃が言うと、臨也は小さく笑ってから口を開いた。
「俺が?まさか。応援してあげてるつもりなんだけどね」
「とても悪意を感じました」
「人聞きが悪い事を言うね。結果的には新羅の奴と話が出来て良かったじゃないか。
その様子だと、まともに会話した事も無かったのかな?」
「うん、はじめて。名前を覚えてくれてた事に驚いてるくらい。私、小学校から好きだったの。新羅のこと。…多分ね」
「多分て…長い間片想いしてる割には自信なさそうだね」
「よく、解らないから。…でも、ずっと見てたから新羅のことなら良く知ってるつもり。彼って話す時に一人称がごっちゃになるの。どこか不安定な感じがするよね。
それに、新羅から聞いたかもしれないけど、すごく好きな人が居るみたい。あ、直接聞いた訳じゃないけど…なにかと話題に出すから筒抜けだよ。
小学校の頃はね…」
そう言って、姫乃は会話をした事も無い相手との思い出話を語り出す。
急に饒舌になった彼女の話に、臨也はただ黙って耳を傾けていた。
「私のこと、ちょっとオカシイって思ってるでしょ?」
急に話を振られ、一瞬はっとしたものの、臨也はすぐに普段通りの笑顔を張り付け彼女に向き直った。
「どこまでを普通って言うかは人それぞれ定義が異なって来ると思うけどさ、そうだね。一般的な感覚で測るなら、君は少し変わってるかもしれない。
だけど、誰かを好きになるって、多少はオカシクなるものなんじゃないかな。俺はそういうの、嫌いじゃないけどね」
正直な感想を述べてやると、姫乃は少し笑ってから呟いた。
「あなたなら、そう言うと思った」
「…?」
「新羅ってクラスメイト…ううん、自分の周りの人間にほとんど興味が無いみたい。でも、折原くんは逆みたいだから」
「逆?」
「人のこと、観察するのが好きそうだねって意味」
自分だって他人に興味など無さそうなクセに、妙に鋭いな、と思いながらも、臨也は笑顔を崩さないまま答えた。
「へえ、良く見てるんだね、俺のこと」
「うん。だって気になるから。新羅が珍しく話し掛けてる相手は、どんな人なのかなって」
「その割には俺の名前も覚えてなかったみたいだけどね。ああ、それで、君が思うに俺は人間観察が趣味だって?そうだね、否定はしないよ」
「肯定って意味で取るよ?それで、一つだけ、お願いなんだけど」
「なんだい?」
「私が新羅のこと好きだって、本人に言わないでね」
「どうかな。黙ってる事で俺に何かメリットがあるのなら約束しても良いけど」
「…私、あなたのこと、もう少しイイ人だと思ってた。クラスの女の子達にけっこう人気あるんだよ、折原くんて」
「へえ、そうなの。あまり興味は無いね」
「……」
口をつぐんで自分を見上げてくる姫乃に対し、臨也は肩を竦めるようにしながら答える。
「そんな顔しなくても、平気だよ。新羅に言ったりしないからさ。そんな事したらつまらないじゃないか。
俺はただ、傍観させてもらうよ。君の気持ちを知った上でね」
「そういうの、悪趣味っていうんじゃない?」
「ストーカーじみてる君よりはマシだと思うけどねえ」
「…ヒドイこと言うね。事実かもしれないけど」
「自覚あるんだ?まあ、何はともあれ、入部おめでとう。応援するよ。君の叶いそうにない片想いをさ」
「それはどうも、副部長」
こうして、来神中学初の生物部に初めて女子部員が入部した。
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