DRRR! !【外伝】
□新宿でーと
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さすが新宿区民。
行き慣れた店も多いんだろう。…って、そんな事はどうでも良い。
「ちょっと、一人で歩けるから離してよ」
思えば、いつもこんな感じだ。
勝手に人の事を引っ張って、自分の行きたい方向へ。
自由奔放にも程がある。
「おや、そうかい?それじゃ、迷子にならないようにね」
まるで子供にでも言うような台詞とともに、私の腕は解放された。
迷子とか…失礼な!
半歩前を歩く臨也の背に内心で不満をもらしつつ、仕方なく着いて行く。
まあ、お腹が空いたのは嘘じゃないし。
しばらくすると、着信を知らせるように臨也の携帯が音を奏でた。
どうでも良いけど、いつ聞いても変だよ、その着メロ。
「ああ、どうもー。お世話になってます」
携帯を耳に当てた臨也が相手と会話を始めた。
軽い口調で話しているけど、相手は取引先だろう。
まあ、臨也に限って友達から電話、とかあり得ないけど。
ああ、でも学生時代からの取り巻きの女の子たちからは直接携帯に連絡があったりするのかな?
別に…どうでも良いけど。
そんな事を考えつつ、ふと電話中の臨也に目をやると、彼は笑顔で、とんでもない台詞を吐いた。
「それが、いま別件で出先なんですよ。ええ、手が空いたらこちらから連絡します。では」
そして、そのまま電話は切られた。
「良くもまあペラペラと…どこが仕事中なの?私と会った時、暇つぶしに人間観察してたって言ってなかったっけ?」
「取り立てて大事な相手でも無いからね。粟楠会とかなら兎も角さ。せっかくの空いた時間を返上してまで労力を提供する気は起きないよ。
それに人間観察だって、ただ暇を持て余している訳でもないさ。興味深く人を観察する事で、情報なんて持っていても向こうからやって来る」
「…趣味を仕事にできるなんて、羨ましい限りね」
「おや。趣味のクラッキングで小遣い稼ぎをしてるのは誰だったかな?」
それを言われては黙るしかない。
その後、連れて行かれたのは小奇麗だけれど、隠れが的な小さなお店。
イタリアンベースの創作料理は見た目も楽しめ、凝りすぎないシンプルな味も美味しかった。
へえ、こんな店あったんだ…。
にしても、お値段は高めだ。
自分で来るには予算が厳しいところ。
「ごちそうさまでしたっ」
お店を出た所で私が言うと、臨也が小さく笑った。
「どうしたの?改まって」
「え?私だって何時も悪いなとは思ってるよ。今度はご馳走してあげる。マックで良ければだけど」
「遠慮させてもらうよ」
「じゃあモスにする?」
「それ、あまり変わらないよね?別に構わないよ。君には、いつも無理言って仕事をしてもらってる訳だし。
ああ、でもご馳走してくれなくても良いから、今度何か作ってよ。外食ばかりでも飽きちゃうからさぁ」
「自炊するっていう選択肢は無いんだ?」
「出来なくもないけど、進んでやろうとは思わないね」
「いいよ。じゃあ今度、何か作ってあげる。あ、九瑠璃ちゃんと舞流も呼ぼうかな」
「…うちに呼ぶ気かい?」
「いつも二人で自炊してるんでしょ?たまには誰かが作った食事を食べさせてあげたいじゃない」
「それは…考えただけでも楽しそうだよ」
珍しく、やや表情を引きつらせながら臨也が呟いた。
まあ、苦手だもんね、自分の妹たち。
分かっていて言う私も、我ながら性格が悪いかもしれない。
それから何となく新宿駅方面に歩き出した。
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