頂戴物譚

□『4月の嘘』(現『春色の記憶』)の卯月真雛様よりの頂き物
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【夢見花(ユメミハナ)】

…………
…………………
……………

「もう止めようかな」

呟いたのは、何度目か。

私は、夢を追いかけて、生まれ育った地を離れ、此処までやってきた。

此処にあるのは、夢。
まるで現実感のない、夢のような幻ばかりが溢れた場所。

両親もいない。
友達もいない。

ここにあるのは、私の、夢。

でも、そのために。
それを見つけるために此処に来たのだから、諦めては、いけない。



―ピンポン…
 ―ピンポン…


「はぁい?」

軽い音で、玄関チャイムが鳴った。どうしたんだろう?訪ねてくる人なんか、此処にはいないのに。

「誰?」

「ハナちゃん?私、ミル」

「ミル!何でっ?」

玄関前に立っていたのは、故郷にいる筈の親友、ミルだった。

「まぁ、良いや、上がってよ!」

「ううん、良いの。ちょっと顔見に寄っただけだから…」

寂しそうに笑う、ミル。
その表情が、何となく引っかかった。

「どうか、した?」

「ハナちゃん、早く、帰って来てね?」

「どうして?」

「皆、ハナちゃんの事、待ってるからね」

何故か、泣きそうに笑う、ミル。とても、不安になる。

「何で?あたしは"夢"を追いかけて"此処"に来たのに」

「ハナちゃん"ユメ"はもう…………―――――」

何かを呟いたミル。だけど、それを聞き取る事はできなかった。ミルは、私の前から、消えてしまっていたから。

……………
………………

「―…え?」

気が付くと私は、ベッドに横になっていた。

「夢?」

寂しいと、弱気になった心が見せた、夢だったのだろうか。
いや、あれも夢だったのだろうか?

いや、それよりも。

「早く、夢を探さないと」

此処に、夢が、あるはず。

ココニ、ユメガ、イルハズ。

『ハナちゃん、ユメは』

ミルが、幻のように私の前に現れる。

コレは、何?
コレは、夢?
コレは、幻?
コレが、現実?


……………違う。
私はただ、夢を追いかけるの。此処で、永久に。





ピ、ピ、ピ、ピ、

規則正しい、電子音が響く。
白い部屋のベッドに横たわるのは、少女。

『ユメがいないなんて嘘!』

『ハナちゃん聞いて!ユメくんは、昨日事故で………』

『ミルの嘘つき!あたし、ユメを探しに行く!』

『ハナちゃん、待って……!』


「ハナちゃん……」

ベッドに横たわる少女の手を、別の少女が握りしめた。
ベッドサイドには、初々しく腕を組んで、笑う男女の写真が飾られている。

「昨日、夢でハナちゃんに会ったよ?夢の中でも、ユメくんを探してた。ハナちゃん、何処にいるの?いつまでユメくんを追いかけているの?お願い、帰ってきて…!」

うなだれる少女の横に、無造作に新聞が置かれていた。

【――高校の屋上から、女子生徒(17)が飛び降りた。いじめなどの疑いは無く、前日に生徒と仲の良かった男子生徒(17)が事故死しており、後追いの………―――】

『あたしは、此処で夢を追いかけてる』

『夢は、此処にある』

『ココニ、ユメガ』


…………………
……………
…………

「もう止めようかな」

何度目かの台詞を呟いた。
わからなくなっちゃった。

でも、私は夢を追いかけて此処に来たのだから。

両親も置いて。
友達も置いて。

諦めては、いけない。


―ピンポン
 ―ピンポン


「はぁい?」




現れるのは、"何"か。
訪れるのは、"何"か。
"夢"か"現"か。


訪れるのは、"誰"か。
迎えるのは、"誰"か。
"ユメ"か"ミル"か。


訪れるのは、"何"か。
"生"か、それとも…………。


全ては"ナニ"か。
"ユメ"か"ウツツ"か。


...END


 『夢見花(ユメミハナ)』は相互記念に、こちらのサイトのタイトルにちなんで「夢か現(うつつ)か? の物語のテーマで短編」とのリクエストをして、卯月ヒナト様(現在→卯月真雛様)に書いて頂いたものです。
 まさに「夢か? 現か?」な物語になっていて、最初は「え? え?」と短いお話の中の展開に翻弄され、明確な結論も提示されてはいませんが、二度三度と読み返すうちに、妙なリアル感を持って脳内に再生されます。
 ヒナ様、ありがとうございました☆



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