空想詩集

□即興物語詩編
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『天地逆転の砂上の楼閣にて』


――すると そこに砂の山……巨大な砂時計が時を刻んでいるのがみえた

その中に囚われた旅人は 天から降り積もる砂の山を 登っても登っても 上にたどり着くことは出来なかった

何故なら 砂山の頂上に今にも旅人がたどり着き 天に開(ひら)けた狭い窓へと手を伸ばそうとすると 巨大な砂時計がひっくり返されて 砂山は崩されてしまうからである

すると今度は 砂は大きな蟻地獄のようなすり鉢状の流砂となって 旅人を その底無しの谷底に 引きずり込もうと崩れかかる


旅人はその底無しがさっきまでの天に開けた窓であることを忘れて 必死にすり鉢状の砂の壁を這い上がろうとする

しかし砂の壁は 這い上がろうとも這い上がろうとも崩れて すがりつくべき壁の高さ自体が下がって行く

だがそれは同時に 底無しの底へと近づいているのだ


旅人がもうどうする事もできずに 足下に吸い込まれて行く 流砂を眺めたまま諦めかけた時 再び巨大な砂時計はひっくり返され 旅人はまた 天から降り積もる砂の山を登ることになるのだ


そして 旅人は知らない

いや 忘れてしまっているのかもしれない

いくら手を伸ばそうと いくら逃(のが)れようとしても 天の窓も 底無しの底も 旅人にはくぐり抜けることは出来ないのだということを


そして旅人は気づいていなかった

砂の山を登り 砂の谷を這い上がろうとして必死なあまり 旅人を翻弄(ほんろう)する砂を閉じ込めている物に

旅人の周りを取り囲んでいるものに


それを壊すことができれば旅人は 砂も一緒に外へと出ることができるだろう

それが可能かどうかではない

まずは気づく心が必要なのだ――


END.

作/新名在理可


 この詩は、P.A.S.社PBM『ぼくらのわくわく大学園祭』に参加していた当時に、MyPC三枝生 七偲(さえき しちし)の裏設定な「設定補足書」内に書いたものです。

 七偲のアート(パートナー)夢現の物語 織宿(むげんのものがたり おりおる)の「挿絵として物語の場面を、飛び出す絵本風に具象化できる」能力を解説する中で、「場面の元となる物語はちゃんとした(既成の)ものでなくともよく、再現したい場面を先に考えて即興で作ったものでもよい」とする条件で、「たとえば、こんな感じの即興の物語でもOK」の例として挙げるために、本当にその場のインスピレーションに従って即興で書き上げました(当時)。

 それは小説の断片というより、詩的な感じだったので、今回、元々は付けていた句読点を外してその部分を空白にし、元の一文ごとに改行する形にすることで、「詩」として分類・掲載してみました。

(新名在理可)

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