黒蝶奇譚
□黒蝶奇譚〜ある里帰りでの出来事〜(完結)
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『黒蝶奇譚〜ある里帰りでの出来事〜』
三枝生 七偲
夢現の物語 織宿
共著
序章 図書館
異世界アラヤシキへ繋がるメインの扉は、三枝生 七偲(さえき しちし)の養家である三枝生家のある地元(七偲が大学院修士課程で学ぶ、初等部から大学院まで併設された全寮制の私立風見ヶ原学園のある風間市ではない)にある。
その「扉」を通じて行ける場所には、三角鳥居で囲まれた空(から)井戸がある円錐形の山があり、そのふもとに、いくつかの社(やしろ)が点在し大きな泉を有する森がある。そこに和風の大きな屋敷があって、その中核をなす建物の中の洋風扉を開いた先には、外観からは想像つかない広大な空間が広がっている。
そこは風学こと風見ヶ原学園の「埋蔵図書館」(…蔵書数世界一と言われ、地底深くまで階層が続いており、未だかつて最深部にたどり着いた者はいないとされるゆえに、そう呼ばれている。正式名称は『私立風見ヶ原学園図書館』)に匹敵する数の蔵書が並ぶ「図書館」の姿を取り、そこを中心に各物語ごとの世界(エリア)にも通じている。
つまり、各物語が展開するエリアへは、……例外もあるが……、該当する本を見つけて開くことで行ける。
今年の夏休み、七偲は養家への里帰りをして、その「図書館」を久しぶりに訪れていた。
七偲はこのアラヤシキでの影響力が危険レベルで大きい為半ば追放されたも同然となっていたのだが、少々気がかりなことができたので、それを確かめに来たのだ。
「……やっぱり、だね」
七偲は、該当する本が並ぶ棚の前に来て呟(つぶや)いた。
「この匂いは、確かにそばつゆだよ」