黒蝶奇譚
□黒蝶奇譚〜夢と現実の狭間にての再会〜(完結)
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『黒蝶奇譚〜夢と現実の狭間にての再会〜』
作/新名在理可
「俺の名は、織宿(おりおる)。意識と無意識の狭間に住まう者だ」
そう名乗ったのは、一冊の黒い表紙の本だった。それが空中に浮かんでいた。
ここは森の中に開けた大きな泉のほとりで、近くには古ぼけた小さな社(やしろ)がひっそりと建っている。空は曇っているわけでもなく昼のはずだが、どことなく薄暗い。
「君はここ……異世界アラヤシキに来て、自分の名前を名乗ることができるか?」
黒い本――織宿が尋ねた相手は、相対してたたずむ和服姿の一人の少年だった。少年は、12、3歳の、ちょうど中学に上がったばかりの年頃に見える。彼は、苦笑して答えた。
「今さら、ぼくの名前を言うの? っていうか、訊くかなぁ? ……まぁ、いいですよ。
ぼくの名前は、三枝生 七偲(さえき しちし)だよ、織宿。いや、『夢現の物語 織宿(むげんのものがたり おりおる)』の名前のほうがしっくりするかな? 一応、本の姿をとっているわけだしね」
それを聞いた織宿は、「そうか(……自分が何者であるか、忘れずにいることは大切だな)」と言った。
「それで?」
「……では七偲、俺はこれから、おまえのアートということになるな。……よろしく」
「ずいぶん、唐突だねぇ。まぁ、いいですけどね。じゃあ、『りおさん』、こちらこそ、よろしく」(←いきなり、愛称で呼んでるよ、この人。(汗))
それが、以前から互いに夢に見ていた七偲とそのアート夢現の物語 織宿との、マスターとアートとしての『再会』だった。
(了)