DETECTIVE CONAN

□警視庁恋物語〜Another Story〜
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7年前。



「あ、」


警察学校に入学して数日。講義室から訓練場に移動する道すがら、女子生徒──鳴海沙夜はあるものを拾った。


「どうしたの、沙夜ちゃん?」

「誰かの落し物?」


小さな巾着のようなそれは、今よりもっと昔、子どもの頃に見覚えがあった。記憶を辿って思い出す。持ち主は、これを『お守り』だと言っていた。離れて暮らすお兄さんからもらった、大事な物だと。


「持ち主が分からないなら教官に──」

「あ、ううん、大丈夫だよ。」

「え?わかるの?」


まだ数日しか経ってないのにと、その数日で話すようになった友人たちは驚く。巾着を丁寧にポケットにしまった沙夜はにこにこと笑って、拳銃訓練に遅れるよと促した。











「うわぁ、かっこいい〜〜」

「5発全弾真ん中だって!」

「降谷くんって入校の成績もトップだったんだよね?」


初めての拳銃訓練にて、女子生徒の注目の的は、金髪碧眼が印象的すぎる男子生徒──降谷零。彼が放った弾は、リボルバーに装填できる5発とも真ん中の『10』の的へ。
沙夜の隣で訓練していた友人も、目を見張っている。


「すごっ…!ねぇ、沙夜ちゃん!」

「ほんとだね。」

「…ってすごく興味無さそう…」


決して適当に返事をしたわけではないのだが、友人に呆れられたので「そんなんじゃないよ…!」と訂正しておく。沙夜からすれば、興味が無いわけではなく──子どもの頃から何でも出来る『彼』を見てきたからこその言葉だったのだ。

そんな沙夜が目を奪われたのは、その彼の隣の隣の隣で、何やら座り込んでいる男子生徒。


「あ〜〜〜やっぱシリンダーストップいっちゃってたわ!バレルとシリンダーの軸線もズレてたし、これじゃあ当たらねーぜ…」

「まっ、松田ァ!?」


官帽を横にして被り、手に工具を持っている男子生徒──松田陣平の前には、見事にバラバラに分解されたリボルバー。
沙夜は驚いて、自分の手にあるリボルバーと見比べる。


「すぐに元に戻せ!」

「あ?」

「え、あれって戻せるの!?」

「さ、さぁ…」


先程とは打って変わって、すごい勢いで食いついている沙夜に、今度は友人が困惑する番だった。


「拳銃訓練は中止だ中止!全員装備返却!松田はそこに立ってろ!」


生徒全員が装備を返却した後、補助教官が、実弾が一発だけ足りないと教官である鬼塚に報告した。
全ての拳銃を保管庫に戻した際に数え直したが、松田がバラバラにした拳銃は回収出来ておらず、そこから不穏な空気が流れ始める。


「何でまだ組み立ててないんだ!?」

「はぁ?立ってろって言ったじゃないっスか?」


鬼塚と松田の言い合いに、ハラハラする生徒たち。


「何かやばくない…?」

「う、うん…でも…」


沙夜も例外ではなかったが、松田が実弾を持っていないということはわかる。彼の狙っていた的には確かに5つの穴が空いていて、彼が拳銃を分解して確かめている最中に空薬莢を補助教官に渡しているところも見た。


「まぁいい…くすねた弾をすぐに出せ!」

「弾なんて持ってないっスよ!全弾撃っちまって、空薬莢も渡したし…」

「ウソをつくな!!」

「あ!?」

「き、教官!」

「なんだ!?」

「え、ちょっと沙夜ちゃん!?」


思わず声を上げてしまった。振り返った鬼塚の圧に怯みそうになりながらも、沙夜は息を吐いて落ち着いてから言葉を選んで話す。


「私、彼が……松田君が、空薬莢を補助教官へ渡しているところを見ました。」

「本当か?」

「はい。」


鬼塚と話す沙夜を、大きな目をこれでもかと丸くして見ていた松田だったが、その後ろでは更に驚いている男子生徒が二人いた。


「…ねぇ、ゼロ。」

「…ああ、ヒロ。やっぱりさすがだな。」


それはゼロ、ヒロと呼び合う二人──降谷ともうひとり──諸伏景光。沙夜が子どもの頃の降谷を知っているように降谷もまた然り、そして諸伏も。いわゆる幼なじみである彼らは、松田のために声を上げた沙夜を見て、昔を思い出した。


「相変わらず筋が通っているというか、芯が強いというか。」

「ふんわりした印象はそのままなのにね。」


いつの間にか松田の隣には班長に任命されている伊達航がおり、鬼塚を諌めている。
伊達が仲裁に入ってくれたことでほっとした沙夜は、その場を離れて友人のところへ戻ろうとした。


「あ、オイ!」

「え?」

「えっと……その、ありがとな。」


引き止められたと思ったら、松田の逸らした不器用なお礼。少し嬉しくて、いつものようににこにこと笑う。


「力になれたなら、良かった。事実はきちんと伝えないと、良い警察官にはなれないよ。」

「…っ!!」

「…相変わらずだな、鳴海。」

「あ、やっぱり零くんとヒロくん。」

「久しぶり……でもないか。」


笑い合う三人に、知り合いだったのかと三人を見比べる伊達、いろんな意味で固まる松田、その松田の肩を叩くのは彼の親友である萩原研二。


「幼なじみなんだ。小学校から、高校も同じだった。」

「へぇ、それでまた警察学校で一緒なのか。なかなかの縁だな。」

「…けど、今はそれよりも」


誰が実弾を持っているのかが気になる、と諸伏が言う。すると、伊達が「真犯人をあぶり出して自首させてやる」と共に拳銃訓練を受けていた生徒たちを睨んだ。


「甘いなぁ、班長も。疑いを自分で晴らさせないと彼も父親のようになってしまう…」

「てんめェ……親父のことを知りもしないで…」

「…え?え?」


またしても漂う不穏な空気。今度は、松田と降谷。訳が分からないと言った様子の沙夜に、「これには長い川のような事情があってねぇ。」とつぶやいたのは萩原だ。


「ああ、知らないから教えてくれないか?君がなぜ警察官を目指しているのかってこともね…」

「教えてやってもいいが、そいつは…テメェを殴り倒した後だ!!」

「えっっっっ!?」


拳を握って降谷に突っ込んでいく松田だったが、突然聞こえたバキッ!!!という音に気を取られて止まった。

天井に穴が空いており、屋根の補修工事をしていると言っていた作業員が落下してくる。その作業員を助けようとして、別の作業員を工事現場に案内していた鬼塚が飛び込んだ。しかし、運悪く、作業員がつけていた命綱が鬼塚の首に絡まる。


「やべぇぞ!命綱が教官の首に!」

「落下してきた作業員、気絶してんじゃね!?」

「屋根に登って縄を切るしか…!!」

「そんな時間ねぇし、また踏み外したらどうすんだよ!?」


悲鳴と、ざわつく生徒たち。女子生徒の何名かは別の教官を呼んでくると訓練場を出て行った。


「…お前ら、やることはわかってるよな?」

「拳銃」

「弾」

「射撃」

「俺は土台」

「じゃあオレは土台の上のつっかえ棒かな?」


伊達の問いに、当たり前だというように素早く答えた松田、萩原、降谷、諸伏。この時、沙夜の目には、5人が少しずつ輝いて見えた。この5人なら──。












その日の夜。警察学校の男子寮と女子寮の間にある共有スペースに諸伏と沙夜がいた。
沙夜は昼間に見つけたあの巾着を諸伏に差し出した。


「これ、訓練場に行く途中で見つけたんだけど、ヒロくんのだよね?」

「っ!そう!拾ってくれて助かったよ。よく覚えてたな?」

「良かった。大事な物だって言ってたなって思ったから…」

「ありがとう。…ところで」


諸伏が、背後にある自販機を振り返る。


「何してるの、萩原、伊達班長、ゼロと…松田まで。」

「いっ…!?」

「いやぁ、ここ共有スペースだし、それに俺らも何か飲み物でも買おうかなって!」

「だったらコソコソする必要はないよね?」

「お、俺はお前らがなんかコソコソ見てっから気になっただけだっつーの!」

「そういう松田が一番慌ててるけど?」

「ヒロくん、素が出てるよ。」










7年後、

所轄から警視庁捜査一課、
警視庁警備部機動隊爆発物処理班、
警視庁公安部
警察庁警備局警備企画課

そして

警視庁交通部交通執行課


5人と1人の警察官による物語が始まる。





from Wild Police Story
CASE. JINPEI MATSUDA







 

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