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□remember
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どこまでも広がる緑と雄大な山々。建ち並ぶ民家は由緒正しい日本家屋のそれ。感嘆の声を漏らした後、沈黙を破ったのは泉だった。



「…想像以上なんだけどぉ」

「まだこんな日本の原風景なんて言われるような場所があるのねぇ」

「──!ひっ!」

「どうしたの、スーちゃん」

「足元にfrogが…!」


とある田舎町へ5人揃って撮影にやってきたKnights。普段、自分たちが生活している高層ビルが建ち並ぶ場所とは真逆の景色に驚きが7割、興味が3割といったところだ。

最初の撮影場所は綺麗な川で、その上には橋が架かっている。河原に立てられた仮設テントの下でスタッフと段取りを確認していた泉がはた、とつぶやいた。


「ちょっと王様は?」

「あそこじゃない?」


嵐が指さした先には「そびえ立つ山々!流れる川!程よい静寂!どんどん湧き上がるインスピレーション!!」と叫びながら今にも川に飛び込まんとする勢いの王様ことKnightsのリーダー・月永レオの姿。
泉のこめかみに青筋が現れ、頭の上から角が生えた。


「なにやってんのぉ!!?もう撮影始まるんだけど!!」


都会と違って遮るものがほぼないこの場所であれば、泉の怒号もいつもの5割増くらいで響き渡る。さすがにレオも無視するわけにはいかず、すごすごと帰ってきた。


「遠征のロケに来ても相変わらずだなんて…まったくLeaderは!」

「まぁまぁ。王様らしくていーんじゃない?」


そんな様子を若干怒り気味に眺めていた司と、ゆるっとした雰囲気で窘める凛月。これもまたいつも通りのKnightsだった。







そうこうしている間に撮影は始まり、5人でのショットを撮り終えてソロの撮影に入ると、空き時間は各々好きに過ごしていた。
泉と嵐は日に焼けるといけないからとテントの下で休憩。レオは作曲をしに消えた。司は初めて見るものばかりだと興味を引かれ、目の届く範囲で散歩をしている。

凛月は、日陰になる場所を見つけて睡眠を取ろうとしていた。良さそうだと思った木陰に座って、寝転がろうとしたところで視界に入った生い茂る木の枝たち。


「…え……?」


凛月は思わず目を瞬かせた。滅多に崩れることのないその表情が少しだけ歪む。

一本だけある特別太い枝の上に、面を付けて黒装束を纏った、確かに『人ならざる何か』がいた。『何か』は掠れた低い声で凛月に問う。


【人の子か……いや、少し違うか……?】

「…アンタ、誰?」


凛月の中に得体の知れないものだという恐怖はあったが、目の前の『何か』に対する嫌悪感は不思議となかった。だから問いかけを問いかけで返し、その枝に向かって手を伸ばした。すると、今度は『何か』の方が顔を顰めた。


【ほう、俺が見えるのか──】

「見えるって、そんなデカい図体してるのに?」

【はっはっは、人の子にしてはなかなか面白いな】


笑いながら凛月の前にふわりと降り立った黒装束。そして周りを見てみろというふうに周囲に視線を配った。凛月もそれに倣うと、言葉を失った。

近からずとも遠からずの絶妙な距離でカメラを構えているスタッフ。少し離れたところにいたらしいレオは、口をあんぐりと開けて作曲していたであろう手も完全に停止している。泉と司は撮影中だったのだろうか、2人とも川の中に足を浸けていたが驚愕に満ちた視線だけは確実に凛月を捉えている。一番、近くにいたのは嵐だ。寝ようとしていた凛月に気付いて注意しようと寄ってきていたのだろう。肩を叩こうとしていたらしい手を引っ込めて嵐は言った。


「凛月ちゃん、独り言なんて珍しいじゃない?暑さにやられちゃったかしら?」





──ああ、見えるのか、って、こういうこと。




やっと理解した凛月は小さく笑って、嵐に「大丈夫だよ」と手を振った。そのまま、次は凛月のソロだと言われたので仮設テントへと戻る。結局、撮影の間ずっと『何か』はそこにいた。時折、笑いながら、ずっと。




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