小説4
□小鳥の囀り
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お昼休みの応接室で、綱吉は雲雀と共に食事をしていた。
食べ終わった頃、雲雀が左手を差し出して綱吉に向ける。
「おいで」
珍しく穏やかな表情でそう言われ、綱吉は密かに胸を高鳴らせた。だがその言葉は綱吉に言ったものではない。雲雀の手のひらには小鳥の餌が乗っている。雲雀は綱吉の頭にとまっている黄色い小鳥に言ったのだ。
「もうすっかり懐いてますね」
僅かに胸が痛んだ気がしたが、気付かなかったふりをして綱吉はそう笑いかけた。
小鳥は雲雀の手に乗って餌を食べ始める。小さな生き物はそれだけで何をしても可愛く見えるものだ。雲雀が指先で頭を撫でると、小鳥は小さく囀る。気付けば綱吉は小鳥が餌を食べ終わるまでずっと見つめていた。
「君もあげてみるかい?」
「え、良いんですか?」
「うん。もう少し食べるはずだ」
そう言いながら雲雀は綱吉の手に少量の餌を乗せる。綱吉は嬉しそうに雲雀に笑みを返し、小鳥を呼んだ。
「ミードーリ〜タナービクー…♪」
「あ、行っちゃった…」
小鳥は綱吉の手にある餌を見るが、小首を傾げて外へ飛んでいってしまった。
「いつも頭には乗るのに、手には乗ってくれないんですよ」
「君、鳥の巣みたいな頭だからね」
そんな事を話していると、昼休み終了の予鈴が鳴った。綱吉は直ぐに立ち上がり、弁当箱を持ってドアへ向かった。
「それじゃあヒバリさん。また放課後に来ますね」
「うん。待ってるよ」
雲雀はそう微笑んだが、綱吉はその前に応接室を出て行っていた。
「…ヒバリさんの、バカ」
教室に向かいながら、綱吉は小さくそう呟いた。
雲雀が何か悪い事をしたわけではない。ただ、少し面白くなかったのだ。雲雀はよく、小鳥の頭を撫でる。だが綱吉の頭にはあまり触れない。癖毛を気にしている綱吉にとって、髪型の事を言われるのは好きではない。ましてや恋人に鳥の巣みたいと言われて、傷付かないわけがなかった。
午後の授業は、ずっと窓の外を見て物思いに耽っていた。
少し心にわだかまりを残したまま、綱吉は応接室に向かった。
今日は金曜日だ。週末はいつも雲雀に会うのが楽しみだが、今は足が重い。
応接室の前、綱吉は緩慢な動きでドアを開ける。そこにはソファーに座り小鳥と戯れている雲雀がいた。
「だからそこ、音がはずれてるよ。いつになったら覚えるの」
「ヒバリ、ヒバリ」
「何?拍手はしないよ」