Batty about Candied Days

□Invitation to a tea party
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「おはよう!」

「おはよう!」

「お、はようございます・・・。」


朝食を食べ終わってから少し後のこと。
玄関の横に取り付けられてたベルがカラカラと鳴り、代わりに出てほしいとモニカから頼まれた琴織は、手にしていた巨大なスプーンを脇に置いて、大鍋のそばを離れた。
ちらり、と背後を確かめると、モニカはグツグツと藍色の泡を出している大鍋に、きらきらと光る星の欠片を投入していた。
がちゃり、とドアを開けると、昨日出会った双子が手にしていたシフォン地の手提げ鞄を見せて笑う。


「来たよ来たよ、本物の帽子屋さんのところに。」

「アリスと帽子屋さんのところに。」

「えと、モニカは今ちょうど手が離せなくて・・・。」


どうしようかな、と困って呟くが、すぐ近くから当の本人の声が返ってきた。


「いえ、大丈夫よ。」


あの大鍋は一体どうしたのだろうと部屋の方を見ると、誰もいないのにもかかわらず、先ほど琴織が手にしていた巨大なスプーンがぐるぐると鍋をかき混ぜていた。
それを見て、ようやくモニカが魔女であるということを思い出す。


「帽子屋さん、おはよう。」

「おはよう、帽子屋さん。
昨日はどうもありがとう、これは帽子屋さんにお礼だよ。」


双子が取り出したのは、綺麗なリボンでラッピングが施された小さな瓶だった。
瓶の中には赤い色の液体と、少し黒っぽい何かが詰まっており、全体から甘ったるい香りがしていた。

モニカは軽く礼を言ってそれを受け取ると、中身を確かめ、当然のようにその小瓶を家の中へと飛ばした。


「それとね、これもどうぞ。」

「どうぞどうぞ。」


魔法で飛ばされた小瓶の行方を目線で追っていると、琴織の前にリネットが一通、そしてモニカの前にクラリネが二通、それぞれずいっと黒い封筒を差し出した。


「え・・・?」


琴織は目をぱちくりとさせて、黒い封筒に書かれた金色の文字を見る。
そこには、《招待状》と書かれていた。


「招待状だよ、お茶会の。」

「お茶のお供は女王様がご用意。」


その言葉に、モニカが『あら』と嬉しそうに呟いた。


「それは期待できそうね。
お邪魔するお礼代わりに、うちのチェロにも用意させるわ。」


モニカの言葉を聞いて、双子は嬉しそうにはしゃぎ出す。


「・・・えっと、『女王様』って・・・?」

「イオリのこと。
双子はそう呼んでるの。
イオリとチェロの料理だもの、味は保証できるわ。」


こっそりとモニカに聞けば、座敷童の名前が返って来た。

確かに、彼女の舌はだいぶ肥えているようなので、その彼女が用意するというのであれば、その料理にも期待ができそうである。
チェロの料理は普段食べており、その味の良さは琴織も良く知っていた。


「なるほど・・・。
ん、ちょっと待って、お茶会っていうことは、いろいろな食べ物が用意されるんだよね・・・?」

「勿論。
多種多様な紅茶は勿論、ハーブティにコーヒーにホットチョコレート、ハニーミルク・・・あの二人が本気を出したら、そりゃすごいわよ。
飲み物はそんなところかしら・・・食べ物も、甘いものからしょっぱいものまで・・・ご希望とあらば、私が追加で用意してもいいわ。
女王様の唸らせることは、まだ出来ないけれどね。」


モニカはいつも魔法を生み出しているステッキを軽く振って見せた。


「すっごく今更なんだけれど、この辺りの木になっているお菓子とか木の実を使うのは良いとして・・・他の材料は、どうやって揃えるの?
見たところ、近くにお店は無いみたいだけれど・・・。」

「ああ、それなら・・・後で連れて行ってあげるわ。」

*****

双子を見送った後、モニカに連れて行かれた先は、家庭菜園だった。
家庭菜園といっても、モニカの魔法で手入れの手間が省けるためか、それなりに広い。
菜園は、一面赤とオレンジ色に埋め尽くされていた。


「カボチャに・・・パプリカ。」

「一応、ここからじゃ見にくいのだけれども、あっちの奥に玉葱とかニンジンとかは植わっているわ。」


ひょい、とステッキを振れば、土がついたままのニンジンがどこからともなく飛んでくる。
さらに何度かステッキを振り、モニカはニンジンについた泥を落とし、皮を剥き、スティック状に切り裂いて見せた。


「どうぞ。」

「・・・ありがとう。」


礼を言ってぽり、と一口齧る。


「モニカは魔法で何でもできるのに・・・野菜は一応、普通に作ってるんだね。」

「イオリがうるさいのよ。」


はあ、とため息をつくモニカに、琴織はつられて笑った。


(4th day)
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